Jan 23, 2025: (±) CNCコマ撮り2つを作る
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元はというと、CNC(コンピューター数値制御)という、モーターのついた工作機械を制御する技術への個人的な興味から始まった企画です。CNCはそれこそフライス盤や旋盤とともに半世紀前からある古い仕組みで、最近はレーザーカッター、3Dプリンターといったデジタルファブリケーションの文脈でで改めて注目されていますよね。今回はこれらのCNC装置のうち、素材を付け足していく3Dプリンターと、素材を削り出していくフライス盤の2つを使って、その加工プロセスそのものをコマ撮り作品にします。YouTubeでも3Dプリントの積層タイムラプス動画なんかがよくありますが、あれがもっと音に同期して、カメラがグリングリン動くようなものを想像してもらえたらいいでしょうか。
もう一つの実験として、これまで作品や仕事の発表後にメイキング記事を公開してきましたが、今回は「メイキングを公開しながら作る」という方式を試してみようと思います。要するにただのDevlogです。自分の制作はギークな興味に基づくものが多いのですが、作品を公開し終えてからメイキングを公開すると、どうにも最初から面白いアイディアが、面白くなるべくして作品に結実したかのように受け取られちゃう気がするんですよね。
例えば去年公開したこのMVは、初期の段階で、今回の短編映像にも技術開発で関わってくださってる右左見拓人さんにも技術的な相談をしていました。ペンプロッターもまたCNCの一種なので、実は今回の短編のR&Dとかなり重なる部分があったんです。多分手法についてワーっと熱く語っていたと思うんですけど、その後忘年会でお会いしたとき「実際に作品になるまで何がどう面白くなり得るのかイメージできなかった」って仰られていて。正直な方だなぁって思いました。 https://www.youtube.com/watch?v=IrS-QTLvxjA
もちろん僕の言語化能力も決して高くはないし、プレビズでも何でも目に見える形でプロトタイプせいって話なんですが、世の中にはそういう形で漸次的に検証しながら作っていくには不向きな作品もあるのだろうなと思っています。むしろ、エレベーターの中で十数秒まくし立てただけで伝わるコンセプトや、一晩や二晩でこしらえたもので検証できるようなアイディアの方が少数なのかもしれません。
Unicodeに収録された世界中の文字たちが、ただその類似度だけに基づいてパカパカと連なり、仮現運動を成す気持ちよさ。何も描き下ろさずして、既に存在している形を寄せ集めるアニメーションさせる愉快さ。そして早口言葉や高速トラックに合わせてペンと修正液が重ね描きされていく、どことないシュールさ。
こういうのって、「After Effectsで作った文字パカパカ」や「ペンプロッターと修正液の重ね描き」のような形で単体テストするには密結合過ぎるようにも思えるんです。ラピッドプロトタイピングは、合意形成やイメージの共有、面白さのエッセンスを蒸留したような表現の検証には有用ですが、そこで見抜けるものを過信してしまうと、ざっくばらんな要素が混ざりあって初めて醸される風味や佇まい ―― このMVでいう、なんというかトンチキ感のようなもの、を見落しているように感じることがあります。この地味なプロジェクトを始めたことには、ものづくりを巡る、ある種のピッチやプレゼン技術、プロトタイピング信仰へのうっすらとした反感も根底にあるような気がします。つまりは、「面白い作品は、面白くシンプルなアイディアから生まれる」、「作品の良さは面白さの核に還元でき、個別に検証可能である」というドグマへの反例を示したいのかもしれません。
今回試す技法を一言でいえば「コンピューター数値制御を使った、付加製造、除去製造のプロセスそのものをアニメーションとして見せるコマ撮り」です。響きとしてはなんか退屈ですよね。クリエイティブ業界の人に向けてプレゼンをするとすれば 「3Dプリンター・オーディオビジュアル・ストップモーション」とでも名付けましょうか。フライス盤は通じなさそうだし、ナウくないので省略しました。技術オンチの驚き屋に向けては「最新のハードウェアと3Dプリンティング技術をハックした、ART & TECHコマ撮り」とほざいておきます。だけど結局のところ、最初の説明こそが作品の面白さを最も的確に言い得ていると思っています。なにより、アイディアや技術というものに一番誠実です。自他問わず、そうしたナードな姿勢が好きなんですよね。ともかくも、地味なもの、細かすぎて伝わらないものの中にあるポテンシャルが正当に評価されるほんの一助になればと願いながら、これからDevlogを淡々と綴っていこうと思っています。ちょっと大言壮語を吐き過ぎましたかね……。
制作のほうはというと、メンターの別所梢さんが危惧していた通り、案の定遅れにおくれています。CNCを取り囲む1.5m立方のモーションコントロールリグの組み立てにウンヶ月掛かったり、年末年始はCNCをNode.jsから制御するライブラリを書いたりなんだりして、なかなか作品制作まで取り掛かれないでいます。助成期間もあと一ヶ月なのでうっすらと焦っていますが、楽曲提供してくれる最高のミュージシャンも決まり、お気に入りの映像ができそうです。